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Interview / 2020.06.04

これからは「人のオムニチャネル化」が実店舗×ECの鍵になる。ECエバンジェリスト川添氏に聞く変化のリアル

世界で猛威を振るうパンデミックは永遠に続くものではありません。いつかは事態が収束し、新しい日常がやってきます。だからこそ、企業は今から未来を見据えて、目まぐるしく変わる市場環境の中を生き抜く戦略を模索する必要があります。

そこで、今回はECエバンジェリストの川添氏をお招きし、Repro株式会社CMOの中澤と対談インタビューを実施しました。特に、本インタビューでは「店舗とECの未来」をテーマに、今考えるべきこと、将来に向けて何が必要になるかを中心にお話を伺っています。

PROFILE

  • 川添隆氏

    川添隆氏

    Takashi Kawazoe>

    ECエバンジェリスト

    佐賀県唐津市出身。アパレル関連企業2社を経験後、前職のクレッジでEC事業の責任者としてEC売上を2年で約2倍に拡大。2013年7月よりメガネスーパーに入社。EC事業、オムニチャネル推進、デジタルに関わる全てを統括し、6年強でEC事業の年間売上は6倍、自社ECサイトの月間受注数が13倍に拡大。オムニチャネル・O2O推進を図る。2018年より、メガネスーパーの親会社である株式会社ビジョナリーホールディングスの執行役員へ就任。また、2017年にエバンを設立し、複数企業のアドバイザーを務める。

  • 中澤 伸也

    中澤 伸也

    Shinya Nakazawa>

    Repro株式会社 CMO

    家電量販店のソフマップにて、店頭接客、バイヤー業務、ECサイト立ち上げ、データマイニング、店舗開発、経営管理と、様々な職種に従事。ゴルフダイジェストオンライン(GDO)のマーケティング責任者、エクスペリアンジャパンの執行役員CMO、株式会社IDOMのデジタルマーケティング責任者を経て2020年4月に取締役CMOとしてReproに参画。

目次

パンデミックの影響度合いを決めるのは、営業形態による集客力

中澤:今日はお忙しい中でお時間をいただき、ありがとうございます! 今回は川添さんと一緒に、このような状況においてECや店舗はどのようにあるべきかという内容を考えていければと思っています。

まず最初の質問として、 今回のパンデミックによってどのような変化が起こっているのかについてお聞きしたいです。

川添氏(以下、川添):当たり前のことではありますが、実店舗を持っている企業はお店を開くことができないので、その分の売上はやはり減っていますね。その上で、扱っている商品が必需品なのか嗜好品なのか、営業形態が路面店なのかショッピングモールに入っているのかで影響度合いは変わります。

現実として、各社から公表されているアパレル業界の4月の前年比の売上は大きなダメージを受けています。ECで売上を担保している企業もありますが、多くはオフラインにおける売上が大きく下がっているので厳しい状況にあります。

川添氏のFacebook投稿より

中澤:たしかに、多くのアパレル企業が影響を受けています。それでは、なぜアパレル業界は大きく影響を受けるのでしょうか?

川添店舗営業の判断を自分たちでできるか、また店舗への集客を自分たちの力でやれるかどうかが大きいと考えています。例えば、路面店は自社判断で店舗を開ける判断が出来ますが、ショッピングモールに入っている店舗は自分たちで判断することは出来ません。

一般的なアパレル業界は百貨店、駅ビル、ショッピングセンター、ファッションビルなどのデベロッパー出店依存度が100%に近い企業が多いです。そのため、路面店と比較するとショッピングモールなどはデベロッパーが判断を行うことになるので、店舗への集客の外部依存度がどうしても高いです。

中澤:なるほど、店舗への集客力はどこもマイナスの影響を同じように受けていると考えていましたが、業態によって受ける影響は変わってくるのですね。

企業の至上命題は、まずは店舗をいかに立て直すか

中澤:正直なところ、消費者の行動変化が大きな影響を与えていると考えていたので、営業形態によって影響度合いが異なるというのは目から鱗でした。

たしかにロックダウンによって、そもそも店舗を開く権限が自分たちにあるのかどうかの方が与える影響は大きそうですね。

川添:実態はそうだと考えています。
もちろん、特需でECが伸びている領域もありますし、このような状況だからこそ、ECを通して購買を行うという消費者ニーズも存在します。ただ、店舗売上のマイナス分をカバー出来るかというと、そこまではないことがほとんどです。

なので、もともとオンラインのみで営業しているブランドはビジネスの影響が少ないですが、店舗で体験をしてからECで購入する流れがあるブランドなどは影響が大きくなりますよね。

中澤:現状だとオンライン対策が話題に上がることが多いですが、企業側としては店舗をどう立て直して行くかの方が命題としては大きいと。

ただ、今後はオンラインに力を入れていくことが必要になるとも感じます。例えば、今まで店舗で購入してた人たちがECに切り替えるという事例はあったりするのでしょうか?

川添:コロナショックによってECを初めて利用したという方は確実に増えていると聞いています。しかし、店舗で購入していた人の大部分がECに切り替わったという事例はあまり聞きません。

もちろん、オンライン施策について投資をしていくことは必要だと考えていますが、チャネル云々というよりも、どうつながって、この状況でどんなキッカケをつくるかの方が重要ではないでしょうか。

「Web担当者しかEC施策を打てない」というのがボトルネックになる

中澤:個人の感覚としてはもっとユーザーはオンラインに購買行動を切り替えていると思っていたので意外でした。
そうすると、消費者はどこで行動をしているのでしょうか?

川添:単純に、購入するチャネルを変更するのではなく、購買自体が減っているはずです。もしくは、お金の使い方が違う部分に流れている可能性もあるでしょう。

例えば、スペックが分かっている家電製品はオンラインでも購入しやすいですが、嗜好品などは画面で見てもニュアンスが分からない、伝わってこないので購買しにくいです。なので、購買する際にニュアンスを含むものはオンラインシフトが難しい。

また、これは私見ですが、ECにおいては価格が1万円以上になってくると、抵抗が大きくなると感じています。

中澤:なるほど。たしかに、ECなどで購入する時にはニュアンスが大事になってくると私も購入をためらう瞬間があります。とはいえ、企業としてはオンラインでの成果も高めていくべきだとも考えられます。

その場合、企業はどのようにオンラインを活用すべきなのでしょうか?

川添:現状の課題として、オンライン接客を始めた企業は増えていますが、企業のweb担当者しかECやオウンドメディアの更新作業ができないという現状があります。すなわち、ECも含めたオンラインの施策を増やすにはweb担当者の手が必要です。結果的に少ない人数で対応せざるを得ないので、web担当の方々が疲弊してしまう。

なので、店舗スタッフのリソースを活用して、オンラインに掲載するコーディネートを増やしたり、ライブコマースを始めるなど、企業全体としてオンライン活用を進めていくことが求められます。

※各社のオンライン施策例はこちら

エンゲージメントが築けているブランドは危機に強い

中澤:オンライン活用でも、人的要因が大切になってくるのは面白いですね。この観点で考えると、他にも自宅で撮影をしてコンテンツを増やしたり、Youtubeで発信を行うことも考えられます。

このようにオンライン施策を全員で進めていくという発想はどの企業にも共通して重要になっていきそうです。

川添:やはり、まだオンラインだけで購買のきっかけを生み出すのは難しいのが実情です。もちろん、広告やSNSに触れて興味を持つこともありますが、確率としてはなかなか難しいところがあります。なので、スタッフ全員でオンラインに取り組んでいくことは必要だと考えています。

最近の話で、私がアドバイザーとして関わっているスイーツブランドのフードロスが発生しそうということでオンラインで特別価格で販売を実施しました。それを私がSNSで投稿したら、「購入が増えた」という話を聞いたのですが、これも購買のきっかけですよね。

このようなきっかけを作れるかが今後より大切になります。この視点で考えると、顧客からのエンゲージメントを築けているブランドは強いなと感じます。

中澤:たしかにニーズの発生は瞬間的なので、新しい接点をつくることが新規顧客の獲得には効きそうですね。

川添:例えば、メガネ業界では多くの場合、顧客情報をもらっていることが多いので、店舗には呼べないかもしれませんが、DMを送ったり、電話でのコミュニケーションを実施するという施策は考えられます。

私が属するメガネスーパーでは、以前「眼鏡が曇りにくいマスク」も展開していたこともあり、コロナが拡大する前にいち早くマスクを仕入れることができたため、社会貢献・顧客貢献の一環として75歳以上の顧客に配布しました。こういう時期だからこその施策ですが、多くのお客様から御礼の声を頂きました。

一方で、多くの小売企業は、リピーター率やLTVなどの指標は見れていても、顧客リストを見ても相手がどのような人なのか分からないということが多いはずです。また、ECサイトとしていわゆるWEBから撮れるデータではなく、定性的なデータを補完している企業の話はほとんど聞きません。なので、アプローチする方法を切り替えられている企業は、これまでちゃんとデータを取れてきていた企業であることがほとんどですね。

これまでの話を少しまとめると、この状況下でも上手く立ち回れている企業は、ブランドが強固であるか、もしくは顧客との関係性を強く持てているかの2軸があります。

そして、この2つが築けていなければ、顧客が他社に流出する可能性は上がっていくと考えられます。

「現場スタッフの間で眠っている資産」を活用する

中澤:この2つは企業としてのこれまでの取り組みが試されるなと感じます。顧客との関係を長期的に築くために、ブランドを構築してきたのか、もしくはデータを正しく集めて活用出来るか。ただ、この2つのいずれかを強固に出来ている企業は実際は少ないでしょうね・・・

そこでお伺いしたいのですが、この2つを上手く築けていない企業は何から始めるべきなのでしょうか?

川添:すぐに実行に移せる可能性が高い施策は、販売スタッフが保有しているリストを活用することです。意外と店舗の方々は、顧客とLINE交換とかしているものです。

お客様は個々のスタッフに紐づいていることが多いので、各スタッフから連絡してもらうアプローチは施策として即効性が高いはずです。このように会社に眠っている資産に目をつけると可能性が広がります。

中澤:現場スタッフの間で眠っている資産、、なるほど! この視点は、多くの企業で応用が効きそうですね。他にも、会社で目を向けられていないデータなどを探してみるのは良いかもしれません。

オフラインの施策から進める方がスピード感がある対応が出来そうですが、併せてオンラインの施策はどのように進めておくと良いというご意見はありますか?

川添Web流入に対するCVRを改善することに着手すべきだと思います。全体的に見ても、Webへの流入は減っているわけではなく、お客様は見に来てくれています。

なので、すでにWebサイトでユーザーとのインタラクティブなコミュニケーションが取れるのであれば良いのですが、対応出来ていないのであれば投資する価値は高いと考えています。

ただ、問題として、ECに対応出来るスタッフが足りないという側面もあるので、リモートかつスマホで対応出来る手段、例えばLINEの活用などは取り組んでも良いかもしれませんね。そうすれば、web担当者だけでなく、店舗や他の本部スタッフが対応できる可能性が出てきます。

顧客からのエンゲージメントを高める施策はどのように生み出されるのか?

中澤:加えて、新規購買をしてもらった方々のリピートを増やすことも大事だと思いますが、いかがでしょうか?

川添:たしかに、今の状況でも新規顧客を獲得出来ている人たちは大事にすべきです。

この時に考慮しなければいけないのが、ECやオンラインでは事実ベースの情報しか掲載出来ないということです。実際の店舗接客だと、ニュアンスを含んだ情報を伝えることが多いですが、ECだとニュアンスを含む情報提供は難しくなります。

このニュアンスを伝えるために、チャット接客などのインタラクティブなコミュニケーションを活用している企業も増えてきていますね。例えば、UNITED ARROWS green label relaxingは、店舗スタッフやプラスの力を借りながら、Twitter、インスタライブ、LINEでのオンライン接客を展開されています。

中澤:オンラインを活用した取り組みは今後もっと増えていきそうです。

ちなみに、オフラインで考えられる顧客のエンゲージメントを高める施策などはありますか?

川添:購入いただいた方にDMする施策などは考えられますよね。余っている店舗スタッフのリソースなどを活用して実施するのはアリだと思います。

今の世の中は社会的な不安が強い状態なので、顧客とのウェットなコミュニケーションは通常よりも伝わりやすいと感じています。

中澤:こういう時だからこそ、ウェットなコミュニケーションは響きますよね。そして、このような判断をすることに経営層の役割があるのかもしれません。

川添:たしかに、難しい局面において、何を優先させるべきか、利益も必要だからどのように確保していくのか。これらを迅速に決めることが、経営層には求められますよね。

ECと店舗の連携強化に求められる「人のオムニチャネル化」

中澤:最後にお伺いしたいのですが、パンデミックの影響はいつか必ず落ち着きます。そして、落ち着いたタイミングの世界では、これまでの常識がそのまま当てはまらない状況も多々出てくると考えています。

川添さんの中で、今の状況が落ち着いた際に、具体的にどのような変化が起こるかに関するアイデアはお持ちだったりされますか?

川添:ブランドの側面でいくと、ミッションやビジョンなどの方向性が明確であることがブランドを強固にすると考えています。みんなが同じ行動を取りやすい緊急事態だからこそ、自分たちの信念にもとづいて、行動をとれていたかを消費者は見ているはずです。

加えて、これまで抑制されていた消費者の購買量はそこまで回復しないと見ています。

例えば、6回購買行動を逃したから、これまで以上に購買回数を増やすというのは現実的ではありません。実際に東日本大震災後のタイミングでも、生活者はブランドを選んで買っていましたと感じています。ちなみに、当時私は選ばれなかった側のブランドにいたのですが(苦笑)。

だからこそ、消費者の購買活動が回復してきたタイミングでブランドに戻って来てもらえるように、今から顧客との関係性を強めておく必要があります。

中澤:このタイミングでECで購入した人たちに、どのようにリピートしてもらうかを考えるのも大事ですよね。

川添:これは今回で学べたことなのですが、ECを支える物流やコールセンターもやはり疲弊しているので、バックヤードを強固にすることが求められると感じています。EC責任者はバックヤードにちゃんと目を向ける必要性が高まりますよね。

さらに、Webの仕事を専属担当者しか対応出来ないのは大きな問題です。データの連携や店舗とECを繋げるオムニチャネルの必要性が高まっていくと思われますが、企業単体では実現が難しいので、上手くベンダーやパートナーと連携していく必要があります。

中澤:ECはこれまで限られた担当者が上手く進めていくものだという認識がありましたが、今後は現場スタッフのリソースをどう活用するかが大事になりそうですね。

ただ、現場スタッフとWeb担当者の垣根を越えていくのは企業にとってはハードルが高いと感じるのですが、どのように乗り越えていくべきなのでしょうか?

川添:発想として、「人のオムニチャネル化」という考え方が必要になるでしょうね。ビームスなどはすでにやられていますが、特に仕事の部分で人のオムニ化が必要だと考えています。

ECなどのオンライン上に不足している情報はたくさんあって、足りない情報を持っているのは現場の販売スタッフの方々です。このノウハウをオンラインに取り込んでいくことで、ECを最強の営業資料にすることを目指さなければなりません。

そして、ECに情報を拡充していくことで、購買のオンライン完結やチャット接客が正しく実現出来るようになるのだと思いますよ。それには、web担当者の力だけでなく、オンラインでも販売が可能な「仕事をオムニ化した販売スタッフ」が必要です。また、店舗スタッフでもオンライン活動に参加できるようなソリューションはもっと増えて欲しいです。

中澤:「人のオムニチャネル化」という言葉、めちゃくちゃ良いですね。今後の、店舗とECの在り方を象徴するキーワードだと思います。

川添さん、お忙しいところお時間いただき、ありがとうございました!

Author Profile

  • hoozm

    大学時代に公共選択学会に提出した学術論文が最終優秀賞を受賞した経験からライティング活動を開始。大学卒業後はベンチャー企業数社にて、セールス、マーケティングコンサル、メディア立ち上げ、新規事業開発、採用業務などに携わる。現在は、Repro株式会社でマーケティング業務に従事しながら、個人でも寄稿やマーケティング支援を実施。趣味で運営している個人ブログでは「マーケティング アイドル」の検索1位を数年間キープ。カスタマーマーケティングmeetup主催。

    Twitter: @hoozm1

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