
Know-how / 2020.10.07
アプリでも刈り取り偏重は終焉へ。ユーザー獲得戦略は「エンゲージメントドリブン」に進化する
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サブスクリプションビジネスにおいて重要になる指標が「チャーンレート」です。チャーンレートを適切に活用すれば、サービスの抱える課題を明確にし、改善に繋げていくことができるようになります。
この記事では、チャーンレートとは何か、その種類や計算の方法などを解説します。
チャーンレートとは、解約もしくは有料版から無料版へのダウングレードのことを指すチャーン(Churn)のレート(Rate)=割合、つまり「顧客が解約した割合」という意味になります。チャーンレートが低いほど、顧客全体に対する解約顧客数が少ないことを表します。
チャーンには顧客のやむを得ない事情で解約する「強制チャーン」と、顧客が自らの意思で解約する「自発チャーン」があります。強制チャーンはサービス提供側では対処しようがないものなので、そこまで気にする必要はありません。一方、自発チャーンはサービスに対して何かしらの不満があって解約をしているため、対策が必要です。解約の原因を知り、改善していくことで将来同じ理由で解約する顧客が現れる可能性を減らすことができます。
近年、ビジネスモデルの主流が「買い切り方式」から「定額制のサブスクリプション方式」へと急速に移りつつあります。
サブスクリプション方式では、購入してもらうことはゴールではなくスタートです。顧客にとって良いサービスを提供している限り、長期的に関係が続きます。このとき重要となるのがLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)です。LTVはMRR(Monthly Recurring Revenue:顧客1人当たりの毎月の収益)にをチャーンレートで割ることで求められます。この式から分かるように、チャーンレートが増加すると、LTVは反比例していきます。
これに関連して、アメリカの大手コンサル会社ベイン・アンド・カンパニーの名誉ディレクターであるフレデリック・F・ライクヘルド氏が調査をして見出した、1:5の法則と5:25の法則というふたつの法則についてもご紹介します。
1:5の法則は新規で顧客を獲得するためには既存の顧客を維持する場合よりもおよそ5倍のコストがかかるという法則、5:25の法則は顧客離れを5%改善すると、最低でも25%の収益が増えるという法則です。特に5:25の法則にある顧客離れとはすなわちチャーンのことであり、チャーンレートを改善していくことで収益が大幅に増えることを示しています。
チャーンレートは、顧客数ベースで解約率を見るカスタマーチャーンレートと収益ベースで解約率を見るレベニューチャーンレートの2種類があります。
カスタマーチャーンレート(Customer Churn Rate)は、顧客数を基に算出するチャーンレートです。通常、ただ単にチャーンレートと呼ぶ場合にはカスタマーチャーンレートを指すことが多いです。
ちなみに、顧客数だけでなくアカウント数をベースにしたアカウントチャーンレート(Account Churn Rate)も存在します。こちらは会社数(アカウント数)をベースにしたチャーンレートです。
レベニューチャーンレートは、一定期間の収益に対する損失の割合を示す指標です。複数の価格帯でサービスを提供している場合は、さきほどのカスタマーチャーンレートだけでなく、このレベニューチャーンレートを併せて使うのが一般的です。
顧客数やアカウント数で算出するものと収益をもとに算出するもの、複数の種類が存在するのにはSaaSをはじめとするサブスクリプションサービスならではの理由があります。
多くのサービスでは価格帯が異なる複数のラインナップが用意されています。もしカスタマーチャーンレートが高かったとしても、レベニューチャーンレートで見た場合、さほど深刻な状況ではないということがありえます。低価格帯のサービス利用者による解約が大半を占めている場合などがこれにあてはまります。
反対に、カスタマーチャーンレートが低いものの、高価格帯のサービス利用者からの解約が続いており、レベニューチャーンレートが高くなってしまう場合もあります。
このように、カスタマーチャーンレートとレベニューチャーンレートは性質が異なっており、解約状況を正確に把握するためにも、両方モニタリングする必要があるといえます。
グロスレベニューチャーンレート(Gross Revenue Churn Rate)は、解約やプランダウンなどによって損失した金額のみに焦点を当てて計算したチャーンレートです。計算式は「グロスレベニューチャーンレート=解約で失った損失金額/対象期間の直前の収益」です。
ネットレベニューチャーンレートがマイナスとなっている状態のことを、ネガティブチャーン(Negative Churn)と呼びます。解約に否定的、消極的であるという意味で、損失金額より収益の増加が大きければそのサービスは成長傾向にあると判断されます。
ネットレベニューチャーンレートが5%の場合と-2.5%の場合で5年後の収益を比べると、ネガティブチャーンとなる-2.5%の収益は5%の収益に比べ、4倍にも差が開きます。そのため、ネガティブチャーンを目指すことでサービスの成長を加速度的に進めることができるのです。
チャーンレートを計測することで、どれだけの顧客が継続利用してくれているのかを把握することが可能になります。これは顧客のサービスに対する満足度を窺い知るためのヒントになります。
現在のサービスに対して顧客が満足できていない場合、解約する可能性が高くなります。一方、順調にチャーンレートを減らすことができていれば、サービスが徐々に成長しているといえます。また、例えばサービスの修正や変更を行った際に前後のチャーンレートを比較することで、その変更内容に対する顧客の評価をおおまかに把握することもできます。
この他にも、チャーンレートをもとにして顧客のLTVを把握できたり、新規顧客獲得にかけられるコストを算出できたりと、さまざまなマーケティング指標の算出に活かすことができます。
カスタマーチャーンレートを求める一般的な計算式は、以下の通りです。
カスタマーチャーンレート=一定期間で解約した顧客数/期間直前の顧客数×100
このとき、期間中に獲得した新規の顧客は分母の顧客数には含めません。
ただし、この式を使ってチャーンレートを求める場合、期間ごとの既存の顧客数や新規の顧客数が大きく変化するサービスの場合には、チャーンレートの変化を正確に捉えることができないため注意が必要です。
以下の例をもとに具体的に考えてみましょう。
・12月
既存顧客数:1,000人
新規顧客数:500人
解約者数:既存顧客の5%の50人、新規顧客の2%の10人
チャーンレート:60/1000×100=6%
・1月
既存顧客数:1,440人
新規顧客数:500人
解約者数:既存顧客の5%の72人、新規顧客の2%の10人
チャーンレート:82/1440×100=5.69%
この場合、チャーンレートの値を見ると「1月の方がチャーンレートが改善した」という結果が導き出されます。しかし、どちらの月も既存顧客の解約率と新規顧客の解約率は同じです。果たしてこれはチャーンレートが改善されたと判断しても良いのでしょうか。
このように、一般的なチャーンレートの計算方法では、上の例のように既存顧客数や新規顧客数が大きく変化するサービスの場合、変化を正確に捉えられず、誤った結果を導き出してしまう恐れがあります。
そこで、より正確なチャーンレートを求める場合は、「ある一定期間aのチャーン数の合計をb」、「その期間の開始時の顧客数をc1」、「終了時の顧客数をc2」と仮定して以下の計算式でチャーンレートを求めるのがおすすめです。
チャーンレート=b/{(c1+c2)×a/2}×a×100
先ほどの例を用いて計算してみましょう。
・12月
期間a=31日
チャーン数b=50+10=60人
期間開始時の顧客数c1=1,000人
期間終了時の顧客数c2=1000+500ー60=1,440人
計算式に当てはめると、「60/{(1000+1440)×31/2}×31×100=4.91%」となります。
・1月
期間a=1ヶ月31日
チャーン数b=72+10=82人
期間開始時の顧客数c1=1,440人
期間終了時の顧客数c2=1440+500ー82=1,858人
計算式に当てはめると、「82/{(1440+1858)×31/2}×31×100=4.97%」となります。
この方法では、12月のチャーンレートは4.91%、1月のチャーンレートは4.97%という結果になり、最初の計算よりは誤差が少なくなりました。
チャーンレートを算出して分析することで、ユーザーが離れてしまう要因の分析や、その対策の実施に繋がります。
もしもチャーンレートが高い場合は、何を理由に離脱しているのかを更に掘り下げていく必要があります。チャーンレートの推移を追っておくことで、どの時期にチャーンレートが高まっているか可視化することができます。その前後で行われた変更点に対する評判や、競合他社の動きについて、詳しく確認してみるとよいかもしれません。
また、離脱を抑える施策を講じた場合も、施策の効果を見極めるためにチャーンレートを使って観測するとよいでしょう。
サービスを成長させるためには、チャーンレートは月間で3%以内がの目安となっていますが、これはサービスの種類や対象によって変動します。例えば、BtoBで大企業向けのサービスの場合、理想のチャーンレートは0.5%~1%です。
チャーンレートを導入する場合は、KPI(Key Performance Indicator)もあわせて設定しておきましょう。チャーンレートにまつわるKPIの項目としては「解約顧客数」「契約更新した顧客の割合」「顧客からの収益」などが挙げられます。
KPIに何を設定するかはサービスの内容によって変わりますが、設定したKPIが達成できていない場合、チャーンレートの改善のために対策が必要と判断できます。
ここでは、チャーンレートを下げるために有用な施策を4つ解説します。
どうして解約されているのか、その理由を把握して原因を解消することが重要です。解約時に簡単なアンケートに答えてもらったり、解約ユーザーの共通点を分析したりすることで原因を把握します。そうして判明した理由に対し、具体的な対策を考えていくことで同じ理由での解約を減らすことができます。
例えば、競合サービスに比べて価格が高いために解約した顧客が多ければ、価格を下げたり、機能を絞ったライトプランを設けたりといった対応ができます。また、月額プランしかないのであれば、1年契約で割引するなどのプランを作ることも有用です。
どれほど良いサービスであっても、顧客に価値が伝わらなければ意味はありません。使い続ければ価値が分かる場合もありますが、そこに至るまでに多くの顧客が離脱してしまうようでは、サービスとして問題があります。
そのため、直感的に使いこなせる分かりやすいUIを作ったり、サービスの内容や活用方法を分かりやすく説明する案内を作ったりすることで、顧客にサービスの価値を理解してもらうまでの時間を短縮することが重要です。
このほかにも、カスタマーサポートの体制を充実させるなど、顧客がサービスを使って良い体験ができるよう、「カスタマーサクセス」に取り組んでいくことが重要です。
NPS(Net Promoter Score)は、顧客のサービスに対する信頼度や愛着度を測るための指標です。
商品やサービスを周囲の身近な人に薦めたいかという質問に対して0~10の11段階で評価をしてもらい、9と10を選んだ顧客(推奨者)の割合から0~6を選んだ顧客(批判者)の割合を引いて求める指標です。NPSは100から-100の間になり、100に近いほど良いとされています。なお、日本人においては、5段階評価で3を選びやすいといった中心化傾向を持つため、NPSはマイナスに振れやすくなります。
NPSを活用する際は、定期的に調査して同業他社との比較を行い、あくまで相対的に評価を確認することが重要です。また、ただNPS用の質問をして終わらせずに、その評価をするに至った理由について顧客体験を交えて追加で答えてもらうことで、顧客が何を重視しているかを把握することも可能です。
この記事ではチャーンレートとは何か、重要視される理由、その種類や算出方法などを解説してきました。チャーンレートはサブスクリプションが一般化した現在、重要な指標のひとつです。この記事を参考にし、ネガティブチャーンの実現を目標にチャーンレートを下げていきましょう。
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