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Know-how / 2020.07.02

カスタマーエクスペリエンス(CX)とカスタマーエンゲージメント(CE)の違いとは?定義・歴史的背景から考える。

近年急速に注目を浴びている「カスタマーエンゲージメント」という概念。マーケターにとっての必須用語となりつつあります。

エンゲージメント(Engagement)を直訳すると「約束」や「契約」という意味で、「カスタマーエンゲージメント」(以下CE)とは、企業と顧客との深い関係性や絆を表します。

一方「カスタマーエクスペリエンス(CX)」という言葉は、商品やサービスの機能的な価値に留まらず、購入するまでの過程や購入後における顧客の「体験」全体に着目する概念です。顧客と企業の関係維持を念頭に置いた言葉であるという点で、CEと近しいニュアンスの言葉だといえます。

それでは、CEとCXには概念としてどのような違いがあるのでしょうか。なぜ今、CEが注目を浴びているのでしょうか。その答えを、二つの概念が成立した歴史から辿って考えてみます。

目次

CXはUXの拡張概念として定着した

まず、CXがこれまでどのように定義されてきたのか、その歴史を概観してみましょう。

CXという概念は、アカデミックの領域においてはかなり歴史の古いものです。例えば1982年の時点でも、Holbrook & Hirschmanによって

顧客が、ある企業と接点を持つときに体感するイベント全体のこと( a whole event that a customer comes into contact with when interacting with a certain business)

The Experiential Aspects of Consumption: Consumer Fantasies, Feelings, and Fun

と定義されていました。この定義は商品やサービスそのものだけではなく、購入前後の接点の存在も念頭に置いているという点で、ほぼ現在の意味でのCXと同じ定義であるといえます。

消費者行動研究の分野で当時は無視されることが多かった、感情や快というエモーショナルな次元に着目しようとする試みの中で生まれた概念でした。

しかし、ビジネスの領域で定着するのはかなり時間がかかることとなります。本格的にビジネス用語として定着し始めたのは2000年代のことです。

例えば現代マーケティング論の第一人者、フィリップ・コトラーは2006年の『マーケティング・マネジメント』(第12版・未訳)の中で、「顧客満足度、ロイヤリティ、顧客収益性といった指標が企業の収益に重大な影響を与える」と述べています。この時代から、購買後の指標改善に注目が集まり、マーケティングにカスタマーセントリックな発想が定着し始めたのです。

そして、Harvard Business Reviewが発表した2007年の論文、『Understanding Customer Experience』はWebサイトの隆盛を踏まえ、次のような有名な定義をしています。

カスタマーエクスペリエンスとは、顧客が企業との直接・間接の接触に対する内的で主観的な反応のことをいいます。直接の接触は、一般的に購入や利用の段階で起こるものです。一方間接的な接触は、企業の製品やサービスに関するメッセージを偶然目にすることによって起こるもので、口コミや批評、広告やメディアニュース、レビューなどが媒介となります。

Understanding Customer Experience

ここでは、購入局面のような直接の接触とは別に存在する、「間接的な接触」が重視されています。

2000年代以降のネットの隆盛により、消費者と企業との接点は爆発的に増加しました。企業がダイレクトにメッセージを届けるための媒体が増えたのはもちろん、顧客自身が企業のアドボカシー(代弁者)となって、間接的に届けられる口コミやレビューを目にする機会も増えたのです。

言うなれば、そうしたマーケティングチャネルの増加という問題に対処することが、CXという概念が提示された目的なのです。

CXという言葉はたびたびUX(User Experience)という言葉とも比較されます。この両者の違いを説明するとき、頻繁に使われる説明が、UXはあくまでもサービスや商品そのものの利用しやすさを高めようとする発想なのに対し、CXはコールセンターや購入導線など、利用前後のあらゆる接点を包括した考え方であるというものです。

もちろん、UXは広義な意味を持つ言葉であり、近年の文脈によってはCXと同じ範囲をカバーする場合もあります。(7/4追記) しかし、顧客との関係におけるタッチポイントの「空間的」な広がりを重視しようとする流れが、CXという概念を新たに誕生させたことは間違いありません。

CXが注目を浴びた要因は小売の競争激化にあった

CXという概念が2000年代に定着し始めた背景をもう少し深掘りすると、苛烈化するWebの販売環境の中で、事業者がサバイブするための方法論として注目を集めたという事情があります。『Understanding Customer Experience Management in Retailing』によれば、「CXという概念は、競争に直面した小売業界のための戦略として登場した」といいます。

ECサービスなどの普及により、実店舗しか販売チャネルがなかった時代と比較すると、複数の商品・サービスを比較検討することが消費者にとって容易な時代になっていきました。商品のスペックや価格による競争だけでは、次第に袋小路に追い込まれていったのです。

その結果、商品そのものとは別に競合との差別化要因を作る必要性が生まれ、それが購入前後の「体験」の改善につながっていくことになりました。そして、改善のために、顧客との接点を「管理」し、個別の接点で届けるメッセージを最適化するという考え方が生まれます。CRMから派生した、CXM/CEM(Customer Experience Management)の発想です。

メトリクス(指標)としては、NPS(ネットプロモータースコア)やCSAT(顧客満足度)が重視され、「より多く」の顧客に選ばれるためのサービスであることが重視されるようになっていきます。売上管理のニュアンスが強かったCRMとは離れ、上記のような比較的「エモい」部分の指標がクローズアップされるのがCXM/CEMの特徴です。

まとめるとCXとは、「顧客接点の多様化」に対応するため、「接点の個別管理」によって顧客の満足度を上げ、企業競争力を高めることを目的とする概念です。そうなると、理想的なCXの条件とは「全ての接点」で顧客の経験することが、彼らの期待に則していることであるといえるでしょう。

後述しますが、実はこの理想そのものはCEと概ね共通しています。注視する部分が違うだけで、顧客との深い関係を構築するというゴールは同じなのです。

カスタマーエンゲージメント(CE)のコアは「主体性」と「時間軸」の強調

続いて、カスタマーエンゲージメント(CE)の定義について歴史的に振り返っていきましょう。先に結論を述べてしまうと、CEはCXよりも顧客を主体的な存在と位置付け、関係性の時間軸を重視した概念であるといえます。

CEの世界初の定義はAdvertising Research Foundation (ARF)が2006年に提唱したもので、

turning on a prospect to a brand idea enhanced by the surrounding context(環境的な要因によって引き出されたブランド観に火をつけること)

The great brand engagement myth

というものです。このフレーズ自体は抽象的過ぎるきらいがあるため批判の対象にもなりましたが、ARFの研究主幹ジョー・プラマーによれば、「(カスタマー)エンゲージメントのコアとなるのは『火を付ける』(turning on)という部分だ」といいます。

すなわち、ただ消費者に企業が一方的にアクションをして需要を一から創出するのではなく、消費者が最初から持っていたサービスに対する評価を企業が温めるというような、共同参加的なマーケティングアプローチを念頭に置いているのです。

実は、この「受動的」な顧客像から「主体的」な顧客像への転換というのが、CEのコアとなる要素だといえます。
世界初の定義を出発点として、短期間で様々にCEに対する意味付けがなされました。

例えばForrester Consultingは2008年に、「長期間に渡って購買や相互関係、帰属を促すような、顧客との深い関係を築き上げること」、そしてEconomist Intelligence Unitは同年に、「顧客と長期間にわたる親密な関係を築くこと」と定義しています。

これらは”engagement”という単語が本来持つニュアンスを重視した定義といえます。すなわち、CEは顧客との関係の「時間」的な広がりを重視する傾向にあるのです。

他にも様々な定義がありますが、CXとCEの境界線は「顧客の主体性」と「関係性の時間軸」を重視しているかどうか、という点にあるとまとめられるでしょう。次に引用するFreshworksの定義は、その2点に触れつつ、CXとCEに明確な線引きを行なっています。

CXとは、マーケティング部署からサポート部署まで、あらゆる企業との接点における顧客体験のことです。部署に関わりなく、全てのタッチポイントがCXに影響を与えます。

CEは、あくまでも顧客ドリブンなものであるという違いがあります。企業がただ顧客に何かを販売して代金を得るという関係性ではなく、企業と顧客が一体となって価値共創をするという関係性のことを指すのです。

CEは、長いスパンでCXを改善していくために役立ちます。サービスに対するエンゲージメントが高い顧客ほど、質の高いフィードバックを企業に与えたり、頻繁に購入したり、プロダクトのより深いところまで知るようになるからです。

Customer Experience vs Customer Engagement: Two Sides of a Very Valuable Coin

Freshworksにおいては、明確にCEはCXの上位に置かれ、CXを長期的なスコープで改善していくための、ある種のシステムとしてCEが定義されているようにも見えます。

さらに、CXのような「エモい」部分はあまり前景化していません。重要なのはあくまでも「購入頻度」のようなプラクティカルな部分なのです。

実際、CEを語る際にはNPSや顧客満足度といったメトリクスではなく、純粋に収益ベースで効果について議論されることがほとんどです。「エンゲージメントの向上に注力した企業はクロスセル金額が約22%向上し、アップセル金額が13%から51%、受注量が5%から85%の範囲で上昇した」という研究結果もありますが、単に「顧客に選ばれるか否か」ではなく、選ばれたあとの「収益性」を重視していることもCXとの相違点だといえます。

Thunderhead(2016)もFreshworksと近いニュアンスで、「CXは言うなればCEの部分集合なのです」と述べており、その理由を「一つの体験(experience)が、企業とのこれまでの関係性全てを壊し、顧客を離れさせてしまう(disengaged)こともある」からだと述べています。

ここで言及されている、たった一回の体験で顧客が離れてしまう可能性に対する注視というのが、CEという概念が誕生した意味だといえます。個別の接点単位で改善を意図するのではなく、複数回の体験の積み重ねを念頭に置き、企業全体の収益改善を図ることがCXとの違いなのです。

CEはCXの「反省概念」として生まれた

最後に触れておきたいのは、なぜ似た意味の言葉なのにも関わらず、CXという概念では不十分で、CEという概念が誕生する必然性があったのかという点です。

先述したように、両者とも顧客との深い関係構築を目的とする概念であることは共通しています。問題なのは、なぜ「顧客の主体性」と「関係の長期性」への注視が目的達成の過程として重要になってきたのかという部分です。

実はCEには、2つの「限界」の認識から生まれたという歴史的背景があります。

「顧客管理」の限界

一つは、顧客を「管理」するというスコープしか持たなかったCRMの限界です。マイクロソフトがForbesに寄稿した『From Customer Management To Customer Engagement 』というエッセイでは、CEを既存のCRMへのアンチテーゼとして捉えようとしています。

伝統的なCRMは、顧客を『管理』するということにフォーカスし過ぎました。今の時代に対応するためには、顧客との関係性を強固なものにするために、企業の従業員たちが協力して顧客との『エンゲージメント』をいかに高められるかということにシフトする必要があります。

From Customer Management To Customer Engagement

この「今の時代」というのは、顧客がもはや企業によって一方的に管理できる対象ではないくらいに力を持ってしまった「顧客中心」の時代というのを指します。

2000年代に急速に進んだインターネットの普及により、オンラインで顧客が自らの意見を発信できるコミュニティが形成されるようになりました。それが消費者に企業を超える力を与え、ついには口コミやレビューなどのUGC(User Generated Contents)を元にビジネスが形成されるようにもなったのです。こうなると、もはや顧客はタッチポイント単位で管理されるだけの受動的な存在ではありません。

2020年のQualtricsによる定義から言葉を借りるならば、「CEという枠組みにおいては、顧客はただ体験(experience)を与えられる立場なのではなく、主体的な参加者となる」のです。CRMから一歩進んだCXM/CEMの枠組みにおいても、顧客は最適(だと企業が考える)メッセージを届けられるだけの存在になっていました。その受動性を覆そうとする思想がCEに内包されているといえます。

例えば中国の電気自動車メーカーNIOは自社アプリにSNS機能を持たせ、自発的な参加を促すオンラインコミュニティを形成する取り組みがコロナショック下でも成果を上げています。このような顧客の主体的な参加を前提とした施策の根幹には、確実にCEの概念が存在しているのです。

NIOのカーオーナーが投稿している写真(NIOのアプリより)

CVRだけを求める手法の限界

そして限界認識の二つ目は、コンバージョン数の最大化を目的としたマーケティング手法に対してのものです。

CEに対する世界初の定義をAdvertising Research Foundation (ARF)が行なったということからも分かるように、CEは元来広告研究の流れで発生した概念でした。

口コミマーケティングの広がりにより、既存のブロードキャスト(一斉配信)型の広告は力を失いました。インターネット経由で情報取得が容易になったことで、購買の選択肢は以前よりも広がり、今まで使っていたプロダクトをスイッチされるリスクも高まっていったのです。そして、以下のような危機感が意識されるに至りました。

マーケティング活動は元来、消費者に対して何かアクションをして、行動を起こさせることを目的にしてきました。しかし、コンバージョン数を最大化しようとする取り組みは、場合によっては継続購入(repeat conversions)の可能性を逓減してしまうことも確かな事実です。

Customer engagement Interview with Richard Sedley of cScape

ただ短期的にコンバージョン数を最大化するだけであれば、とにかく企業のマーケティングメッセージを広くリーチさせることを追求すれば十分だったはずです。しかし、顧客に選択肢が大量に用意されている現在の状況下では、不用意なメッセージを受け取ったたった一回の体験が顧客を離れさせてしまう可能性を考慮する必要があります。

調査によると、「自分に関係のないメッセージに不満を感じる」と回答した人は46%、「体験がよくなかったことで購入をやめる」と答えた人は約4割に登ります。
現在では、複数回の「体験の蓄積」を念頭に置いて、カスタマージャーニー全体を踏まえた長期的な設計をしなければならないのです。

例えば、口コミによる拡散を狙ってサービスのシェアを促すメッセージをWebサイト利用時に送ったとしましょう。何度も訪問しているロイヤリティの高い顧客であれば、その狙いに素直に応じるかもしれません。しかし、まだ利用を初めて間もない顧客の場合は、メッセージを煩わしく感じ、再訪問をしなくなってしまう可能性が高いのです。

だからこそ、本メディアの記事『トップマーケターの考えるカスタマーエンゲージメント』で説明されているような、時間軸で顧客のエンゲージメントが高まるルートを設計し、その進度に沿った体験を与え続けるアプローチが有効になるのです。CEの概念を具体化した最もわかりやすい例だといえるでしょう。

つまり、顧客の現在のロイヤリティの度合いによって届けるべきメッセージが異なることを表現するためには、Customer Experienceという言葉では不足しており、別の用語を必要としていたのです。その意味で、CXがCEにアップデートされることは最初から必然だったといえるのかもしません。

まとめ

CXとCEの違いを表にまとめると、次のような形になります。

CXとCEは、両者とも顧客との深い関係構築を目的とする概念ですが、誕生の経緯と重視する要素はかなり異なります。

CEの方が成立の遅い概念であるからこそ、「マーケティングの主体として自らアクションする」「ロイヤリティの低下により簡単に離脱してしまう」現代的な顧客像にマッチしているのは間違いないでしょう。

だからこそ、別の概念として対比的に捉えるのではなく、CEはCXの「後継概念」であると捉えるのが適切なのかもしれません。

※本記事で提唱したCE、CXの定義はあくまでも一つの見方であり、他の定義を否定するものではありません。(7/4追記)

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