
Know-how / 2020.05.08
「変わりゆく"コミュニケーション"、変わらない"商売"」 #NEWWORLD2020 株式会社オールユアーズ 木村氏、株式会社ナノ・ユニバース 越智氏
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コロナウイルスの感染拡大は、必ずしも全ての企業にマイナスの影響を与えているわけではありません。外出自粛にともなうオンライン利用の増加により、新規にユーザーを獲得できているサービスもあるのです。
しかしそのようなユーザーは何か対策を取らない限り、感染拡大が収束した段階で離れていってしまうことでしょう。消費全体が抑制される「アフターコロナ」の長期不況を見据えて、今から対策を講じておく必要があるのです。
本記事では市場の動向を踏まえて、コロナショックが過ぎ去ったあとを見据えた、有効なマーケティング施策をご紹介します。
コロナウイルスの感染拡大により、小売店や外食、旅行業界を中心に大打撃を受けているのは周知の通りです。
しかし、約2割の企業は外出自粛が始まった3月の時点でも売上を伸ばしているというデータもあります。
ゼノデータ・ラボが4月下旬に発表した「業界別影響度ランキング」によれば、製薬(ドラッグストア含む)やスーパー・コンビニ、食品・飲料、ECなど日用品を中心にポジティブな影響を受けているといいます。これ以外にも通信サービス、ソフトウェア、電子機器なども売上が伸びている業界です。1)
しかし、これらの業績アップはあくまでも「代替需要」(例:外食→食品・飲料)や「オンラインシフト」(実店舗→EC)が大半の要因であり、消費全体としては、雇用・所得環境の悪化のため長期的に落ち込むことが予想できます。
コロナ感染拡大初期には、収束後の反動により「キャッチアップ効果」が発生し、需要が跳ね上がることで早期の景気回復が起こるという予測もありました。2)
しかし、一足先にコロナショックから経済回復の道を歩み始めた中国に視線を移してみると、楽観的にはなりづらいことが分かります。西南財経大などが4月に公開した調査結果によれば、中国の「半数」の家庭が消費を減らして貯蓄を増やしているといい、消費増に対する期待感は薄れつつあるとの見解が示されているのです。3)
また、消費活性化の「切り札」4)と形容され、3月から各地で配布されている商品券の効果も薄く、2.5億元の配布のうち初動で使用されているのは260万元のみという数字もあります。5)
最近は日本でも、早期に感染終息したとしても、マクロ経済の回復は鈍いという予測が主流となりつつあります。たとえ今、オンラインシフトなどによって伸びている業界でも、外出自粛が終わってしまえば、他の業界と同じく不況にあえぐことになる可能性が高いのです。今は集客できているとしても、必ずしも自社の市場競争力に起因した好調ではないことを認識しなければなりません。
今伸びている領域こそ、「コロナ危機終息後の危機」を見据えて、追い風が吹いているうちに増収の持続化を図る必要があるといえるでしょう。
コロナ収束後の業績低迷を防ぐためには、いま伸びているオンラインからの売上を少しでも「持続化」することが重要になります。そのための手段として最もシンプルな発想は、コロナ下において新しく自社の商品やサービスを利用するようになったユーザーの愛着(エンゲージメント)を高め、利用を継続してもらうことです。
一度だけでも商品を購入してもらい、メールアドレスなどユーザーの情報を取得できたとすれば、その接点を利用して継続利用を促進することが可能になります。いわゆる「CRM(顧客関係管理)」の考え方ですが、新規ユーザーが増えているタイミングで注力することで平常時よりも効果が上がるのは言うまでもありません。
そして、顧客との接点を維持するために「今」有効な媒体として真っ先に挙げられるのがモバイルアプリです。
現在のコロナショック下では、各国でアプリに費やす時間は軒並み2桁台の増加率(前年同期比)となっており、特に今年1-3月で見ると、中国では1日当たりの滞在時間が30%(日本も7%)も増えています。6)
コロナの影響による消費抑制を考慮しても、アプリへの支出は2024年までに倍増するというデータもあるため、今後投資を優先すべき媒体であることは明らかです。
また、今はアプリによるCRM活動に投下したリソースに対するリターンが大きいタイミングでもあります。
例えば、米国のモバイル関連企業Airshipによると、今年の3月はアプリのプッシュ通知開封率がここ4年間で最高になったといいます。コロナ感染拡大以前と比べると、ジャンルによっては最大60%増加したというデータもあるのです。7)
外出自粛と商業活動の停滞によりモバイル端末の利用時間が圧倒的に増えた今だからこそ、端末を通して消費者に直接メッセージを届けられるチャンスだといえます。「Withコロナ」時代を生き残る企業とそうでない企業の差がオンラインコミュニケーションの活用にあることは本サイトでも繰り返し取り上げてきたテーマですが、最も今投資すべきコミュニケーションチャネルを選ぶとすれば、それはアプリであるといえるでしょう。
コロナショックによって実店舗の利用が大幅に減少し、2〜3月の時点でネット上での購入が約19%増加したというデータも出ている今、多くの業界でWebサイトへのテコ入れが行われているのは当然です。しかし、Webサイトで集客した新規ユーザーに、いかにして継続してもらうかという議論はあまり行われていません。
実はコロナ感染拡大以前から、欧米を中心に「Web to App」8)という、Webとアプリという二つのチャネルを、それぞれの性質を考慮してつなぎ合わせるマーケティングアプローチが有力視されていました。不況を見越した収益の持続化戦略が重要な今、このアプローチこそがオンラインマーケティングの王道パターンとして採用すべきものであるといえます。
例えば、以前の記事で紹介したナイキはアプリのDL数を伸ばす施策を行うことによって、コロナショック下でもEC売上を増加させることに成功しましたが、背景にあるのは「Webで新規獲得、アプリでCRM」という考え方です。
リクルートマーケティングパートナーズの調査によれば、広告接触後の継続利用率(6ヶ月後)をPCサイト、モバイルサイト、アプリの3つで見てみると、6か月のPCサイトやモバイルサイトは5%程度を推移しているのに対し、アプリは20%をキープしているといいます。9)
また、ECサービスのコンバージョン率を比較した場合も、モバイルやPCサイトを上回る数字になっています。
もちろんアプリにはインストールというハードルがあるため、純粋なサービスへの誘導力で考えるとWebサイトの方に強みがあることは明らかです。ここから分かることは、利用のハードルが低く、SEO施策などによる流入数のコントロールがしやすいWebサイトで新規ユーザーを獲得し、そのユーザーをアプリに誘導して継続利用を促していくというパターンが収益化のために効率的であるということです。
最後に、上記の「Web to App」施策を行うことによって収益を伸ばしたサービスの例を紹介しましょう。
自動車の検索・販売サービス『カーセンサー』は、「LTVが最も良いチャネル」としてアプリのプロモーションに広告予算を投下し、成功を収めました。10)11)具体的なアプリへの誘導施策としてはスマホサイトを利用しているユーザーにリターゲティング広告を配信し、ディープリンクでアプリストアに直接遷移させるというものが挙げられます。
さらに、アプリの利用者に対して、他サイトの回遊時に過去の閲覧履歴を元にしたレコメンド広告を出稿し、利用継続を促す試みも行なっています。いうならば、「Web to App」と並行して「App to App」施策も行い、マーケティングチャネルのハブとしてアプリを位置付けているのです。
また海外に目を向けると、オランダの有名ランジェリーメーカー『マルリース・デッカー』がアプリ活用により収益を伸ばした事例として挙げられます。12)
彼らは11月の商戦期「ブラックフライデー」のプロモーションの受け皿をアプリに集中させることによって大きな成功を収めました。アプリでのセール開始を一日早くして、「now in the app, tomorrow on the website(今すぐ買うならアプリで、明日でいいならウェブサイトで)」というキャッチコピーのもと、普段はWebサイトで商品購入をしていたユーザーにアプリの利用を促したのです。
元々アプリのコンバージョン率は、PC・モバイルブラウザでのCVRをともに大きく超えていたため、インストール数向上は長期的な売上の向上をもたらすことになりました。
特筆すべきはアプリに誘導した分Webサイトでの売上が減少するということはなく、アプリでの売上増加によりWebの売上も底上げされていたということです。アプリを通したCRMによりユーザーが目にする商品の種類・頻度が増えたために、元々Webサイトで購入していた既存のユーザーがロイヤル化したのが理由だといえます。
『カーセンサー』の担当者中村与希氏も語っているように、アプリの利点は他サイトと簡単に比較検討ができてしまうWebサイトとは異なり、「1回インストールされれば、競争が起きない環境のなかで、顧客との接点が持てる」13)ことだといえます。同一カテゴリーのアプリは平均1.9個しかインストールされないことから、独占的にコミュニケーションを取り、ユーザーの育成を図ることができるのです。
あるいは日本最大級の婚活パーティー情報サービス『オミカレ』は大規模なプロモーションではなく、Webからアプリへの導線を最適化することによって「Web to App」施策を実施しました。元々アプリの方がコンバージョン率は高かったものの、SEOによるWeb流入がベースとなっており、アプリへのシフトが急務となっていたという背景があります。
そこで、高速に実行できる施策として、Webの行動履歴に応じてアプリ送客の文言のチューニングを行いました。結果、アプリのインストール数を10%向上させることに成功したのです。
コロナショックによりマーケティングコストの削減が各企業から報告されている中、予算を最小限に抑えてアプリへの送客増加を図りたい場合は、 上記のような「Web接客ツール」の活用も一つの手だといえます。
コロナショック下の今、オンライン消費の増加などによって一部の領域がポジティブな影響を受けていることは事実です。しかし雇用・所得環境の悪化により、消費全体としてダウントレンドが長期化することも確実視されています。長期の不況を見据えて、今集客できている業界ほど、ユーザーの持続化に向けて策を練っておく要があるといいます。
ECサイトに限定した場合、一般にわずか1%のユーザーが収益の40%に貢献しているという数字もありますが、14)このようなロイヤルユーザーを育成するために、アプリへの送客を試みることは有力な方法でしょう。
上で紹介したような事例を参考にして、「Web to App」施策を行うことで、「コロナ危機終息後の危機」に備えてみてはいかがでしょうか。
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